煙の世の獣村 (1)

 こんにちは、猫手水晶です。

 今回は、小説「煙の世の獣村」の第1回です。

 以下が本文です。


煙の世の獣村

序章 「煙の世」

 この世は煙の世と呼ばれていた。

 巨大な工場の煤煙によって煙に覆われ、あたりには廃れた掘っ立て小屋が積み木のように上に横にと積まれ丘となり、一つの巨大な大きな煙を吐く化け物のようにたたずんでいた。

 遠くを見回してもそのような化け物の群れが広がっているだけで、煙の空とどこか調和している姿は、人間をも食ってしまいそうなほど恐ろしく、気分を悪くしてしまった。

 だが、工場の力がなければ自分達は生きていくことができない。

 工場は不快な煙を吐いているが、その代わりに自分達に便利な機械や先進的な技術をもたらしてくれるのだ。

 なので自分達はこの化け物の上に住んでいてその事に不快感をおぼえているにも関わらず、誰も文句を言わない。

 しかし歴史的な文化を残そうとする取り組みもあり、掘っ立て小屋の外装は歴史ある町屋のようなデザインになっており、街道には灯篭が並んでいた。

 だが、その掘っ立て小屋もぼろぼろで、それが大量に積み上がった風景と歴史ある町並み、煙とのコントラストは哀愁を漂わせ、味のあるものだなぁとすら思える。

 ロボットは妖怪のようにこの街をほっつき歩いている。

 もともとはこの街を案内する観光用のものだったらしいが、いまはそのプログラムが機能しなくなり、ただほっつき歩くだけの存在になってしまっている。

 私は仲間とその街を歩き、何か記事になるようなものはないか探していた。

 私はジャーナリストをしていて、自らの足で話題を探し、この煙だらけの街で生き抜くコツや、他愛もない話題を探していた。

 巨大な化け物の背を這う虫のように、私達はただ上を目指して登っていた。

 そこに何かありそうだ。

 「狼太郎さん、向こうになにかあるんですか?」

 仲間の記者が言った。

 「そうですね。とりあえず登ってみましょう。」

 ちなみに私は「ろうたろう」と読んで「狼太郎」と書く名前だ。

 こんな街では普段動物を見かける事はないのだが、30~20年前から二本足で歩く動物が街に時々、突然姿を現す時があった。

 おっとう(父)が昔、二本足で歩く狼を見つけ、私の名前はそれにちなんでいるらしい。

 しばらく登っていると、ずっと連なっていた小屋が突然途切れている地点にたどり着いた。

 「なんですかこれ!竹林ですよ竹林!すごい!まだ残ってたんですね!狼太郎さんすごいですね!」

 記者は大喜びでそう言った。

 向こうには鳥居があり、その向こうは竹林になっていた。

 周りは煙だらけの街なのに、その鳥居を一歩超えると竹林になっていた。

 竹林なんてとっくの昔に狩り尽くされてしまったと思った。

 しかしそこにあるという事実が目に映っているのだ。

 私は誘われるようにその鳥居に向かって走った。

 鳥居を抜けた。

 すごい!

 すがすがしい!

 こんなにきれいな空気、生まれてはじめてだ!

 ふと我に返り、踵を返して後ろを向くと、先程までついてきていた記者がいなかった。

 不思議に思った私は、鳥居の地点まで戻った。

 そこには驚きと怯えがまじった顔の記者がいた。

 「待って!」

 そう言って手を伸ばすも、記者は逃げて行ってしまった。

 手を伸ばし、自分の手が視界に入った時、私は自分自身の体に違和感をおぼえた。

 手が毛で覆われている。

 服の袖をめくって腕全体を見ても、腕も黒い毛で覆われている。

 今まで住んでいた街で水はあまりきれいなものが残っておらず、濁っているものが多かったが、たまに少しだけ浄化されている水が高い値で売ってあるのを見たことがある。

 水は鏡のように自分を映すのだ。

 その事を思い出して、とっさに水を探し、池を見つけ、その池を覗いた。

 池には服をまとった一人の二足立ちの狐が映っていた。


 読んでくださり、ありがとうございました。

 これからも応援してくれると嬉しいです。

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